#12【高齢者の転倒要因とは?対策法はあるのか?】

高齢者の転倒は、単なる不注意ではなく、筋力低下・関節可動域の制限・バランス機能の衰えなど、身体機能の複合的な変化が関係しています。この記事では、具体的な転倒要因とその背景にある身体のメカニズムを姿勢の専門的な視点から紐解いていきます。

【はじめに】

現代の日本は高齢社会であり、65歳以上の高齢者の割合が人口の14%以上を占めております。これに伴って医療や介護サービスの需要が年々高まると同時に地域社会の活力低下などが問題に上がっています。私たちの見解では、年齢は誰しも平等にあり決して若返ることは出来ない為、年老いながらでも健康であれば、医療や介護に頼ることなく、自立して活動ができ、それだけで地域社会の活力へ貢献できるのではないかと考えられます。

しかし、現実では【#11】でご紹介したように転倒は、75歳以上の死因の7番目でもあるほど高齢者にとって重大な問題要素のひとつです。高齢者は若年層よりも日常生活を慎重に過ごしており、転倒しないように気を付けております。なのに転倒してしまう…。踏ん張り方が悪いのか?今回は、高齢者の転倒について考えてみましょう。

【バランス機能】

バランスが崩れた時に転倒しないように姿勢を立て直すバランス反応には大きく分けて3つのパターンがあります。足関節を中心とした運動で反応する足関節戦略。股関節を中心とした運動で反応する股関節戦略。そして足を1歩踏み出すステッピング戦略の3つです。若年層と高齢者ではバランスが崩れたときの反応パターンが異なり、高齢者のバランスの取り方の特長として足関節戦略よりも股関節戦略を用いる傾向があります。直立から歩き出す場合を考えたとき、若年層では最初に足関節の筋肉が反応し、その後少し遅れて股関節周りの筋肉が反応します。対して、高齢者は足関節周りの筋肉の反応時間が若年層よりも遅い傾向があり、先行して股関節周りの筋肉の活動が始まります。
また、身体を前方に傾斜させた姿勢を元の後方へ修正する動作を比較したときに、高齢者では後方へ状態を修正する足関節周りの筋肉(ヒラメ筋)の活動の開始が若年層に比べて遅いことや、やっと活動したとしても大きくかつ素早く発揮する能力が劣っています。

では、なぜ高齢者は股関節運動を得意とするのでしょうか。それは、足関節は運動制御に強い筋力を必要とする高度で複雑な動作をする一方、股関節は体重移動により筋力をそれほど必要としない動作だからと考えられます。少し考え方を変えてみると、高齢者は苦手なバランスの取り方を避けて得意なバランスの取り方で対処している。より安全で効率的な身のこなしをしている訳で、ある意味高齢者なりに得意な土俵で上手くバランスを取っていると言えます。

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【足関節の解剖学】

【咄嗟の1歩】

障害物につまづいてバランスを崩した時にそのまま転んでしまうか転ぶのを免れるかの分かれ目は、"咄嗟の1歩"を踏み出せるかどうかにかかっています。高齢者ではこのようなバランスを崩して転倒しそうになった時の咄嗟の1歩、すなわちステッピング反応が出なくてよく転んでしまうと言われています。しかし、これは適切な表現に直すとステップが「出ない」というより「遅れる」のです。若年層と比べてステップを開始するまでの反応時間が遅れることや、ステップを踏み出す方向の選択判断が遅くなったり、足を踏み換えるときのスピードが低下する結果として、「咄嗟の1歩」が間に合わなくなり転倒に繋がってしまうのです。

これらの理由は一概とは言えず、他にもステッピング反応だけで見た時に若年層では姿勢が乱れて転びそうになっても1歩を前に踏み出して踏ん張ることで姿勢を立て直すことができますが、高齢者だと1歩を踏み出せたとしても筋力不足により踏ん張る力がなく、バランスを崩して転倒すること。また左右方向にバランスを崩した場合、若年層では足を交差して1歩ステップを踏んで姿勢をまた立て直すことができますが、高齢者ではうまく足を交差できずに足がもつれて転倒する。など、いくつかの転倒ケースが考えられますが、その中でも側方への転倒は重篤な股関節付近の骨折を起こしやすく、その後の寝たきりや要介護状態などを招く深刻な問題へと繋がるリスクがあります。高齢者にとって横揺れに対する予防対策は非常に大切だと言えます。

【認知と姿勢制御】

立て続けに危ない転倒を繰り返している内に、自分に自信を喪失させ恐怖へと陥ってしまい、活動レベルは全面的に低下して外出することさえ拒み、引きこもるような高齢者も少なくはありません。
転倒への恐怖はバランス制御との関係からその人がどのように考え、またどのように行動するかについて大きな影響を与える可能性があるのでしょうか。これらの答えを出すことはu>高齢者のバランスの失われ方を理解する鍵となるかもしれません。
人は加齢とともに注意力、即ち情報処理能力が低下する為、多重課題(同時に違うことを行うこと)を遂行しなければならない状況に直面した場合は、両方を遂行するための注意能力は持ちえないかもしれません。異なる環境では注意能力はバランス能力にどのように影響を与えるのかという疑問を探る研究が始まっています。

みなさんは何の目的を持って移動していますか?きっと多くの方があまり考えたことがないかもしれませんが、移動には必ず何かしらの目的が備わっている筈です。例えば、「飲み物を取りに行くために冷蔵庫へ向かう移動」「手を洗う為に洗面所まで向かう移動」など。もし仮に目的なくウロウロしている場合であっても何か考え事をしていたりと、ただ単純に"移動"だけを行うことはあまりない筈です。このように何気なく複数のことを行う行動であっても、高齢者にとってみれば複雑な移動であり"難易度の高い移動"なのです。1997年に『歩いている最中に年齢を尋ねられ立ち止まってしまう高齢者は転倒の危険性が高くなる』という論文が報告され、以降転倒に関する研究と論文報告が飛躍的に増大しました。

"色々なことを同時に行うことができる"ということは大脳皮質が発達した人間が得意とすることです。しかしながら時としてこのような機能があるが故に転倒という事故を導いてしまうのかもしれません。高齢の方がお茶を持って歩いていたら、「飲んでから歩いたほうがいいですよ」とそっと忠告してあげて下さい。

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【マルチタスク研究論文】

【まとめ】

高齢者にとって転倒とは非常に遭遇しやすいアクシデントです。転倒によって骨折や寝たきりという重篤な問題を起こさない為には、未然に転倒を防ぐ予防策が何よりも重要です。高齢者の年間転倒発生率は約20%であり高齢者の5人に1人が年に1回は転んでいると言われています。転ばない体づくりを目指した「転倒予防教室」が全国各地で実施されていますが、その内容のほとんどが筋力トレーニングです。高齢により筋力が低下すると、歩行や階段の上り下りの移動動作が不安定になり、躓いて1歩踏み出した時に自分の体重を支えれずに転倒する確率が高くなると一般的に認識されているからと考えられます。アメリカ老年学会のガイドラインにおいても、最も転倒する起因は筋力低下とされており、筋力低下が認められている高齢者は、そうでない高齢者に比べ転倒の危険性が4.4倍高くなるとされています。転倒事故の発生頻度が男性よりも女性の方が高い傾向にあるのも、男性に比較して女性では筋力低下が著しいことが理由のひとつとして考えられています。

では、筋力が向上すると転倒発生率は本当に減少するのでしょうか。これまで転倒予防対策に関して様々な研究がされていますが、筋力トレーニングのみでは転倒減少効果が少ないことが報告されています。転倒はこれまでに記したように筋力低下だけではなく、あらゆることが複合した原因によって発生することが多いのです。その為、筋力トレーニングだけではなく、精神安定や姿勢バランスなどを整えることによって転倒発生率が減少するのではと考えられます。2つのことを同時に行う練習をすることで、脳内での情報処理能力が向上し、色んな情報が入ってきた際にパニックにならずに精神を安定して保つトレーニングにもなる。そして何より、【#11】で紹介したように体の構造が正常であることで物理的な障害を受けることなく、本来持っている能力を十分に発揮できる体でいるには姿勢バランスが正常であるかどうかによって左右されます。転倒要因の危険率において筋力低下は最重要因子であることから、転倒予防対策としてもちろん筋力トレーニングは必須ですが、それだけでは十分とは言えないのです。運動処方の専門家なども個別の運動プログラムなどを用いて筋力トレーニングを勧めようとしますが、もっと高齢者の体のメカニズムを考えて案を出して欲しいものです。

”最後に”
当院は、整体院や整骨院とは異なり、対処療法ではなく科学的根拠に基づいた姿勢調整を行うことで、不調の改善と健康維持を目指す「健康支援センター」です。姿勢科学の分野をまだ知らない・自分に合ったケアがまだわからない方へ、早くこの手が届きますように!そんな思いで、日々活動しています。

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