#16【姿勢の仕組み~姿勢はいかにして保たれいつ変化しているのだろう】

近年、何事も便利な時代になることで肩こりや腰痛など体に症状を抱える方が増えてきている一方、その原因は「姿勢」にあるのかもしれないという知識がテレビやYoutubeなどのメディア機関で取り上げられる機会が増えたことで、一般的に認識されつつあります。そもそも「姿勢」とはどのようなメカニズムで確立しているのでしょうか。

【はじめに】

人間の座る・立つ・歩くといったごく基本的な動作をするのには[姿勢と平衡機能]が重要であるという専門家や臨床家はわずかですが存在します。一方で、その姿勢と平衡機能の一般的な定義をはじめとするこれらの機能制御に関わる神経機構などについての意見や議論は全くありません。つまり、一般的に知られているような知識や情報で普段メディアなどでは議論されていますが、姿勢の本質的な構造や機能などについては触れられていないのです。これは、「姿勢科学」の学問を学ばなければ分かり得ないことであり、捉え方を変えれば当然のことでもあります。「姿勢科学」を学んだ人は現在国内で非常に少ないとされています。よって、独自の意見や理論をメディア上で吐く人が増え、あらゆる意見が飛び交い世間が混乱するようになっているのが現状です。

先日、テレビで拝見しましたが“このストレッチひとつで症状解消”と謳って腰痛や肩こりは姿勢悪化が原因とされ、それはある特定の筋肉を指し、その筋肉が硬直しているからという理論でした。人間の体というものは、骨格や筋肉、腱、靭帯などあらゆる組織によって構成されており特定の筋肉だけを指して、同じストレッチひとつで万人に効果があるというのは非常に理解し難いものでした。今日までの間にあらゆる改善法が提唱されてきましたが、もし本当にその方法が効果的で改善するのであれば、患者数は今頃減少しているはずです。次から次へと新しいアイディアを出し合うのでなく、一旦「姿勢」について真剣に考え、人間の姿勢の本質を理解する必要があると思います。

【人は静止していない】

人類が直立で二足歩行を行うようになった時から重力は人類の敵となりました。それ以来、人類はこの敵と休みなしに戦っています。人間がある姿勢となり、その姿勢を保持する機能を姿勢制御といいます。臨床場面では、症状を持った患者様は何かしら姿勢バランスが変化して結果的に症状を招かれている方が大半です。そんな姿勢バランスが乱れて傾いている方でも二足歩行ができるのは姿勢制御の機能が働いているからです。

私達人間は幼少期の頃に一生懸命に二本足で立つことを繰り返します。何とか立てた時、動く余裕もないほどその場でよたよたバランスを取る筈です。同じことを何度も繰り返すことでようやく動けるようになり、現在は無意識状態の中で常にバランスを取り続けているのです。なので、「気を付け」の立位姿勢は完全に静止しているという風に世間的には認識されていますが、全くの動きがなく静止した安定状態にあるわけではありません。体の各部位は僅かながら常に動き、姿勢動揺を生じています。これは、その場の環境に関わる情報が視覚系や前庭系及び体性感覚系からの情報が中枢神経に伝達され、脊髄から大脳皮質までにおいて統合され、同じ姿勢を保持するための情報が最終的に筋群に伝えられることで起きます。

【人間はなぜ立つことができる?】

そもそも人間はなぜ立つことができているのでしょうか。それは、もちろん骨格の変化や筋肉の支え、先ほど述べた神経の伝達系などあらゆる要素がかみ合って成り立っているのですが、ここでは骨格筋肉にフォーカスを当てようと思います。
体重の7~8%の割合を占めている頭部を支える脊柱は、24個の椎骨をS字状に積み上げた構造になっており、これは高層ビルの耐震構造を思わせるような柔軟な動きを可能にしています。よって当然脊柱の椎体は下に位置すればするほど大きくなっています。また、下肢骨は太くて長く直線的であり、重い体重を片方の足に乗せて持続的に歩くことが可能となっており、これは当たり前のようですが他の動物には不可能な人間特有の構造です。
次に筋肉の場合で考えると、主に体の背面の筋肉を収縮させて重力による前方への屈曲(首や腰が前傾になる)を防ぐ必要がありますが、そのような筋肉を抗重力筋といいます。主に[長母指屈筋・母子外転筋・ヒラメ筋・腓腹筋・大腿二頭筋・大殿筋・小殿筋・腸腰筋・脊柱起立筋・外腹斜筋・僧帽筋・胸鎖乳突筋]などがあります。例えば脊柱起立筋の場合だと、片張綱のように後方から前傾になろうとする脊柱を引きつけることで立位姿勢を安定させています。抗重力筋はこれと同じような働きをして安定するように日々支えてくれているのです。このようにして、我々人間は一見当たり前のように立って二本足で生活をしていますが、人間特有の骨格や筋肉によって継続的に二足歩行で歩くことが可能になっているのです。

【動物との構造的な違い】

人と動物とを区別する決定的な違いが直立二足歩行にあります。人の体の根源的・本質的特徴は立位姿勢を保持する為の構造にあると言っても過言ではありません。二足直立姿勢を持続的に保てる構造の特徴は、四つ足動物との比較を通じて明確になります。
立位姿勢は抗重力機構として発達しました。その大きな特徴は上肢が体重の支持から開放されたこと、体幹が下肢の真上に位置していることです。人間もかつて長い歴史を遡ると四つ足歩行をしていた猿からの進化であり、今から約700万年前に初めて猿人として直立二足歩行するようになったと言われております。最初はみなさんもご存じのように前傾姿勢で前かがみのような歩き方をしていたのですが、遠くの獲物を見つける・相手に大きく見せて威圧する(※所説あります)などの理由から年月をかけながら今のような直立姿勢になったのだと言われています。加えて加齢による姿勢の変化は不思議と進化過程を遡るように変化することも特徴のひとつです。~首の前方突出、骨盤の後傾化、股関節と膝関節の屈曲など、起源的な前傾姿勢へとなっていくのです。
動物との違いで具体的な例をいくつかあげると、ひとつは何より上半身の自由度。体重の支持から開放された上肢は、関節箇所も多く可動域も大きい。指先の巧みな動きは人間特有の大進化です。他に立位姿勢の最も大きな特徴は下肢の上に体幹が垂直に位置している点です。従って、下肢と脊柱の連結部である股関節と骨盤に動物と大きな違いが生じることになります。

【まとめ】

人間として生まれた以上、今行っている事が何の違和感もなく当たり前になっていますが二本足で立てていることは非常に素晴らしい事で人間は奇跡とまで言える生き物なのです。初めの疑問に関して述べると、これほど複雑且つ精密に二足直立(=姿勢)が確立されているのであれば、事前に決まっている調整方法が万人に効果的であり、しかもそれが特定した筋肉のみに対してのアプローチで変化するというのは非常に考え難いものです。姿勢というものは環境に順応しながら変化していくものです。だとしたらお仕事や生活環境などが人それぞれであることにより、姿勢の調整法は人それぞれ違うという考え方が最も自然であると思います。ひとつひとつの関節の状態・動き方、筋肉の左右バランス・クセなど千差万別であることから、"これをすると症状が解消する"というものは、Aさんには効果的だがBさんには逆効果であることも十分に考えられます。

症状を改善しようと試みたときは、テレビでこう言っているから、ネットでこう言っているからではなく、まず自身の体がどうなっているのかを理解することが非常に重要です。自分の体は自分で守るのです。自身がどういう姿勢をしているが故にどのような歩き方、どのような体重・重心の移動の仕方を行っているのかなどを細かく検査・分析することできっとあなたに適切な改善法が明確になり、道が切り開けてくると思います。

”最後に”
当院は、整体院や整骨院とは異なり、対処療法ではなく科学的根拠に基づいた姿勢調整を行うことで、不調の改善と健康維持を目指す「健康支援センター」です。姿勢科学の分野をまだ知らない・自分に合ったケアがまだわからない方へ、早くこの手が届きますように!そんな思いで、日々活動しています。

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